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仙台高等裁判所 昭和45年(う)151号 判決

控訴人・被告人 柳田鶴松

弁護人 青木正芳 外一名

検察官 平野新

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

但し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、原審における証人坂井義美(昭和四二年一一月一日および同四四年七月三一日の二回)、同坂井弘に各支給した分を被告人の負担とする。

本件起訴状記載の公訴事実第一の窃盗の点につき被告人は無罪。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人寺井俊正名義および同寺井俊正、同青木正芳共同名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

寺井弁護人の控訴趣意第一および寺井、青木両弁護人の控訴趣意第一点(原判示第一の事実についての法令適用の誤り)について。

各所論は要するに、原判決は、原判示第一において、被告人が、柳田徳蔵所有のロンバート・チエーンソー一台を窃取した事実を認定し、窃盗罪に問擬しているのであるが、被告人は、従前同人から意地悪をされた腹いせに右物品を海中に投棄する意思をもつて、同人方から持ち出し、これを海中に投棄したものであつて、不法領得の意思を欠き窃盗罪にはならない旨主張する。

よつて審按するに、原審における被告人の供述記載、被告人の司法警察員(昭和四二年二月四日付、窃盗被疑事件についてのもの)および検察官に対する各供述調書、司法警察員作成の同日付捜査報告書に当審の検証調書を参酌すると、被告人は本件の数年前から浜にあげていた動力船の煙突から水を入れられたり、スクリユーのねじを取り外されたり、部品を盗まれたり、また昭和三九年四月には動力船に火をつけられたりして何回もいたずらをされたことがあつたが、これらのいたずらをした者は柳田徳蔵やその兄田中徳太郎であると思いこみ、その仕返しのため、原判示の日の午前三時半ころ、柳田徳蔵方の不在であることを察知し、同人方に行き玄関土間から同人所有のロンバート・チエーンソー(動力のこぎり)一台を海中に投棄する目的で持ち出し、被告人方と反対方向の約一五〇メートル西方の福浦港海浜に行き、さらに船で約一五〇メートル沖合に出たうえ、これを水深約三〇メートルの海中に投棄したことが認められる。原判決は、弁護人の主張に対する判断の項において、被告人に不法領得の意思があつたことの理由として、概ね右の事実とその回収を不能ならしめたこととを認定し、被告人には他人の財物につき自ら所有者として振舞う意思があつたことを説示している。しかし、窃盗罪の構成要件としての不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用しまたは処分する意思をいうものであることは累次の判例の示すところである(大正四年五月二一日大審院判決-刑録二一輯六六三頁、昭和二六年七月一三日最高裁判決-刑集五巻八号一四三七頁)。そして、ここに「経済的用法に従つて利用しまたは処分する意思」とは、物の所有者であれば一般にするような、または、物の所有者にして初めてなし得るような、その物の本来の用途にかなつた方法に従い、あるいはなんらかの形において経済的に利用もしくは処分する意思を意味し、単純な毀滅または隠匿する意思にとどまる場合を排除する趣旨と解するのが相当である。これを本件についてみれば、被告人は前記のように仕返しのため海中に投棄する目的で、本件ロンバート・チエーンソーを持ち出したに過ぎないのであるから、不法領得の意思を欠くものというべきである。前掲被告人の各供述調書中には、盗んだ旨の記載があるか、右の記載は、右認定になんらの消長をも及ぼすものではないと認められる。すなわち、本件は刑法二六一条の器物損壊罪に該当すべきは格別、窃盗罪とはならないものというべく、原判決が不法領得の意思があるものとして窃盗の事実を認定し、刑法二三五条を適用したのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤りを犯したものといわざるを得ないから、この点において原判決は破棄を免れない。各論旨は理由がある。

寺井弁護人の控訴趣意第二および右両弁護人の控訴趣意第二点(原判示第二の事実についての法令適用の誤り)について。

寺井弁護人の所論は、原判決は、原判示第二の事実につき有罪としたが、被告人が本件火薬類の所持を始めた時において、既遂に達したものであるからすでに公訴の時効が完成していると主張し、寺井、青木両弁護人の所論は、要するに、被告人は、本件火薬類を都道府県知事の許可なく違法に譲り受けたものであつて、火薬類取締法一七条、五九条四号に該当し、その後の所持は不可罰的事後行為として同法二一条違反にはならないから無罪たるべきであり、仮に本件行為を同法一七条、五九条四号に問擬するならば、公訴の時効が完成したから免訴の言渡をなすべきであると主張する。

よつて審按するに、原判決の挙示する関係証拠によれば、原判示の事実は十分これを認定できるところであり、これによれば本件火薬類の所持は昭和二九年六月ころに始まり同四一年一二月二二日に終つているのである。ところで、公訴の時効の起算点は、刑事訴訟法二五三条一項により、犯罪行為の終つた時であるところ、火薬類の所持は、いわゆる継続犯であり、所持の継続の終了の時をもつて犯罪終了時と解すべきである。本件火薬類の所持の法定刑は、火薬類取締法五九条二号によつて、一年以下の懲役または一〇万円以下の罰金であるから、刑事訴訟法二五〇条五号に該当し、公訴の時効期間は三年であるところ、本件行為の終了時たる昭和四一年一二月二二日より起算し、本件起訴の日であること記録上明らかな同四二年七月二〇日までの間には、いまだ右三年の時効期間が経過していないことは明らかである。次に、被告人の司法警察員に対する昭和四二年一月二一日付供述調書(三二救綴りのもの)、原審証人坂井弘の供述記載によれば、本件ダイナマイトおよび電気雷管は、被告人が網主の坂井弘に漁夫として雇われて同人方に泊つていた昭和二九年春ころ、佐井村の牛滝浜辺の築港工事をしていた大見建設の帳場の者からこれをもらい受けたのち自宅に持ち帰りこれを物置小屋に隠匿して所持していたものであることが認められる。ところで、火薬類取締法における譲り受け行為に随伴する所持とその後における別個の態様による所持とはその評価を異にし、後者は独立して処罰の対象となるものと解するのが相当であるから、所論の如く、本件所持は、譲り受け行為の不可罰的事後行為となるものではないというべきである。したがつて所論は前提を欠き採るを得ない。結局本件所持罪につき火薬類取締法二一条、五九条二号を適用した原判決は正当である。各論旨は理由がない。

寺井弁護人の控訴趣意第三、第四および右両弁護人の控訴趣意第三点(原判示第三の事実誤認)について。

寺井、青木両弁護人の所論は、要するに、原判決は、原判示第三において、被告人のダイナマイト使用に関する本件所為につき、爆発物取締罰則一条を適用しこの点をも有罪としたが、本件ダイナマイトは爆発する性能を失つていたから、爆発物を使用したと認定した原判決には、事実誤認があると主張するのであり、寺井弁護人の所論は、右のほか、さらに、被告人は原判示の坂井義美をびつくりさせるために本件ダイナマイトを薪に仕掛けたに過ぎず、傷害の目的がなかつたから、爆発物取締罰則一条の目的を欠くものであるのに、原判決は傷害の目的を認定した点においても事実誤認があると主張する。

よつて、まず、寺井弁護人の右後者の所論について検討するに、原審における被告人の供述記載中には、なるほど論旨に沿う趣旨の記載はあるが、しかし、記録を調査すると、原審第三回公判廷において、原審弁護人の取り調べに異議がない旨の意見により取り調べを了した被告人の司法警察員に対する前記昭和四二年一月二一日付供述調書によれば、被告人は、本件ダイナマイトおよび雷管を薪に仕掛けて右坂井方の薪置場に置いてそれをストーブにたかせ爆発させて右坂井をけがさせてやろうと考えたことが認められるから傷害の目的があつたものというべく、所論は採るを得ない。

次に本件が爆発物の使用に該当するかどうかにつき判断するに、本件ダイナマイトおよび雷管は、被告人の司法警察員に対する前記昭和四二年一月二一日付供述調書によれば、被告人が昭和二九年春ころ、牛滝の大見建設の築港工事中、その帳場の者からもらい受けたもので、その後四〇日ぐらい過ぎてからこれを海浜に近い自宅へ持ち帰り、二日間ぐらい薪積み場に隠して置いた後、ダイナマイトと雷管を別々にセメント袋の紙に包み、これを一緒に包んで物置小屋の棟とたる木の中間に上げて隠しておいたもので、本件の薪に仕掛けるまで実に一二年六ケ月の長年月を経過しており、被告人が本件犯行を決意し、小割薪に仕掛けるため取出して見たところ、雷管には変化はなかつたが、ダイナマイトはどろどろに溶けてその量が半減していたというのである。また、右ダイナマイトおよび雷管の銘柄、種類については、原審証人丸山源吾の供述記載、丸山銃砲火薬店丸山源吾作成のダイナマイト等の売渡に関する回答書面によれば、本件ダイナマイトは、昭和二九年五月六日ころ右丸山銃砲火薬店が販売した桜二〇ミリダイナマイトで直径二〇ミリメートル、四五グラムのものであり、雷管は六号電気雷管であることが認められ、右桜ダイナマイトの組成等については、日本油脂株式会社武豊工場監理室友石某作成の「ダイナマイトの組成等について(回答)」と題する書面によれば、その重量パーセントは、ニトログリセリン(ニトログリコールを含む)五〇・〇〇、綿薬二・〇五、硝酸カリ三八・一八、木粉八・七七、澱粉一・〇〇であつて、その新品のものは一般に使用されている軍用爆薬よりもさらに爆発威力があるものであることが認められる。ところで、本件ダイナマイトの経過年数および被告人の貯蔵状況は前示のとおりであるところ、原審鑑定人大塚一雄作成の鑑定書および原審証人大塚一雄に対する尋問調書によれば、一般的にダイナマイトは貯蔵条件の変化に伴ない老化、ニトログリセリンの浸出変化、自然分解による変敗の現象(変化)が考えられ、老化現象により爆発性能特に爆発速度の低下が起るものとされており、綿薬やニトログリセリンなどのいわゆる硝酸エステル類は、自然分解を行なう本性を持ち、常温においてさえもかなり顕著に分解し、温度の上昇に伴なつてその分解速度を急増するといわれ、これを基剤とするダイナマイト類もまた、本質的に自然分解または変敗を避け難いとされ、本件ダイナマイトの経過年数、貯蔵の状況などを考慮すれば、桜ダイナマイトの本性を失つているものと考える。というのである。しかも、右大塚証人の尋問調書によれば、火力により雷管自体が破裂して飛散することが考えられ、その際の音はそれが一、二本であれば、自動車のタイヤのパンク程度であるというのであるが、田中政美の司法警察員に対する供述調書ならびに当審証人田中政美の供述によれば、本件事故時、坂井義美方と道路を距てた筋向いの内藤保方にいた右田中が聞いた音は、ドシンまたはポコンというあまり大きくないものであつたというのである。また本件爆発によるストーブの破壊の程度について見ると右田中政美の司法警察員調書、当審における田中証人の供述および司法警察員作成の実況見分調書添付写真一三、一四葉によれば、本件の円筒形の薄鉄板製の薪ストーブは立つたままであり、たき口の扉が曲り、たき口付近が底部と離れた程度(もつとも原審(第二回)証人坂井義美の供述記載および坂井義美の司法警察員に対する供述調書によれば、同人がストーブに薪五本を入れたき口を閉めたが、内部でシユーと異様な音がしたためたき口の扉を開けていた際爆発したことが認められる。)(なお、前記田中証人の供述するところによれば、ストーブの上部の五枚ぐらいの輪の一、二枚が取り外されてストーブの脇に置かれ、ストーブの上部にはやかんが載せられたまま約四八度に傾いていたというのである。)で、ストーブの横の外周には異常がなかつた程度であることが認められるのである。また、原審鑑定人久保田光雅作成の鑑定書(原審第一〇回証人坂井義美の供述記載によれば、ストーブは三年で取り換えるところ、本件事故当時のストーブは購入してから二年ぐらい経過していたものであることが認められるのに、同鑑定人の鑑定は、原審証人久保田光雅の供述記載によれば、新品のストーブを用いたものであることが認められるが)によれば、本件爆発は電気雷管だけによるものではなく、同時に少量の他の火薬類(例えばダイナマイト)も爆発したものと推定される、というのである。

ところで、爆発物取締罰則にいわゆる爆発物とは、理化学上のいわゆる爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資料が総合せる物体であつて、その爆発作用そのものによつて、公共の安全を攪乱し、または人の身体財産を傷害損壊するに足る破壊力を有するものと解すべきである(最高裁二小法廷昭和二八年一一月一三日判決、最高裁判例集七巻一一号二一二一頁参照)。これを本件についてみるに、前記のとおりのダイナマイトの経過年数、貯蔵状況、被告人が小割薪に仕かける際取り出して見た時のダイナマイトの状態、本件爆発によるストーブの破壊状況に前記両鑑定人作成の鑑定書、同大塚、久保田両証人の各供述記載を綜合考察すれば、本件事故は、主として雷管自体かストーブの火力により破裂飛散したものであつて、ダイナマイト自体の加功の程度は軽微であつたものと認められ、本件ダイナマイトは、その本来の性能をほとんど失つていたものと認めるべきであるから、火薬類取締法二条の火薬類にはなお該当するが、爆発物取締罰則一条にいわゆる爆発物には該当しないものといわなければならない。したがつて、原判決が、本件ダイナマイトを同条の爆発物と認定したのは、事実を誤認したものといわなければならず(結局原判示第三については、傷害の事実の認定のみ適法である。)、しかも右の事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点においても原判決は破棄を免れない。各論旨は理由がある。

ところで、原判決は、原判示第一ないし第三の事実につき、併合罪として、一個の刑を科しているから、全部の破棄を免れない。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但し書により、さらに次のとおり判決する。

原判決が適法に認定した原判示第二の事実は、火薬類取締法二一条、五九条二号に、同第三の事実中各傷害の点は、いずれも刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項に各該当するところ、同第三の事実中各傷害の罪は観念的競合の場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、犯情最も重いと認める坂井義美に対する傷害罪の刑に従い、以上各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い傷害罪の刑に同法四七条但し書に従つて法定の加重をなした刑期範囲内において、被告人を懲役一年に処し、なお、本件各被害者との間に調停が成立し、それぞれ相応の慰藉料を支払つたこと、被告人には前科がないこと、その他被告人の年齢、家庭の情況等諸般の情状を考慮のうえ、同法二五条一項により、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、主文第四項掲記の分を被告人に負担させることとする。

本件起訴状記載の公訴事実第一は、被告人は、「昭和四一年八月下旬ころ、下北郡佐井村大字長後字福浦三番地柳田徳蔵方において、同人所有に係るロンバート・チエーンソー一台(時価一五八、〇〇〇円相当)を窃取した」というのであるが、すでに認定したとおり、単に仕返しのため海中に投棄する目的をもつて、これを同人方から持ち出し、投棄したものであつて、窃盗罪における不法領得の意思は認められず結局犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をなすべきものとする。

なお、本件起訴状記載の公訴事実第三のうち被告人が坂井義美の身体および財産に加害する目的をもつてダイナマイトを使用したとの点は、すでに認定したとおり、本件ダイナマイトはその本来の性能をほとんど失つていたものと認められるから、爆発物取締罰則一条にいわゆる爆発物には該当しないものというべく、結局犯罪の証明がないことに帰するが、右の事実と傷害の事実とは観念的競合の場合に当るから、主文において、無罪の言渡をしない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田瑞夫 裁判官 阿部市郎右 裁判官 大関隆夫)

弁護人寺井俊正、同青木正芳の控訴趣意

第一点原判決には法令適用の誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるので、原判決は破棄されなければならない。

一、原判決は罪となるべき事実の第一において、被告人は昭和四一年八月下旬ころ、下北郡佐井村大字長後字福浦三番地柳田徳蔵方において、同人所有ロンバート・チエーンソー一台(時価一五万八、〇〇〇円相当)を窃取したと認定した上で弁護人の主張に対する判断の中で、被告人は判示柳田徳蔵らが被告人所有の動力船を毀損したと思い込み、その仕返しのため海中深く投棄する目的で右柳田所有のロンバート・チエーンソー一台を同人方から無断で持ち出したうえ、これを福浦港沖合約一五〇メートル、水深約三〇メートルの海中に投棄し、その回収を不能ならしめたことが認められるから、被告人には他人の財物につき自ら所有者として振舞う意思があつたものというべく、従つて不法領得の意思があつたと解するのが相当であると判示した。

二、ところで判例によれば、ここにいう不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、これを利用もしくは処分する意思であると定義されているのであつて(大審院判例大正四年五月二一日、判決録二一号六六三頁、最高裁判例昭和二六年七月一三日刑集五巻八号一四三七頁)毀棄または隠匿の意思で他人の占有する財物を奪う場合とかは不法領得の意思がないとして窃盗罪を構成しないとされるのである。特に前記判例は毀棄罪との区別をたてるために展開されたもので、そのメルクマールとして、経済的用法に従い、利用・処分する意思の有無を問題にしたのである。

三、従つて、原判決の判示によれば、被告人はロンバート・チエーンソーを無断で持ち出し、海中に投棄したのは、仕返しのため海中深く投棄しようとの意思のみを有したのであつて、経済的用法に従い、利用若しくは処分しようとの意思は全く有していなかつたことは明らかであるから、判例に従えば、明らかに窃盗に関する不法領得の意思がなかつたといわなければならない。

この点において原判決は、不法領得の意思に関する解釈を誤つて法令の適用をしている。この誤りが判決に影響及ぼすこと明らかであるので破棄されなければならない。

第二点〈省略〉

第三点、原判決は審理を尽さなかつたため事実を誤認した。そしてこの誤認は明らかに判決に影響を及ぼすので破棄されなけばならない。

一、原判決は、被告人のダイナマイト使用に関する本件所為につき、爆発物取締罰則第一条を適用し、被告人を有罪にした。つまり原判決によれば本件ダイナマイトは爆発する性能を未だ有していたというのであり、現実に爆発したというのであり、しかもそれは右罰則第一条の爆発物としてのそれの程度のものであつたというのである。

二、しかし原審で取調べた証拠により、右の事実は証明されているであろうか。この点は未だ証明されていないのではないか。

すなわち原審で取調べられた証拠によれば、

(1)  本件電気雷管は爆発した。

ストーブのそばに居た子供の手の背に破片が入つていたということ、ストーブを鑑定したところ、〇、一耗×〇、一粍の陥凹部が多数あつたということ、雷管それ自体が残つていなかつたことなどから、この事実は明らかである。

(2)  爆発音は一度しかなかつた。

ストーブのそばにいた人達及び爆発音を聞いた人の一致した経験は、爆発音は一度だけであつた。

(3)  本件電気雷管はストーブ内の、そしてそれが挿入された薪の熱により、外部から熱せられた結果爆発した。

久保田鑑定人の実験は、通電により、雷管を爆発させているが、本件はこれとは全く異なり外からの熱により爆発しているのである。

(4)  本件の爆発が生じる前に本件ダイナマイトはもえていた。

被害者坂井義美はストーブの中で、「シユー、シユー」という音がするので中を見たところ、火焔が噴き出ていたというのであり、被告人の本件薪の作つた状況に関する供述を合せ考察するならば右火焔はダイナマイトの燃焼している状態であつたことは明らかである。

(5)  本件ダイナマイトは、長期間、放置されていたため著しくその性能を失つていた。

大塚鑑定人、久保田鑑定人の証言等によつて明白にされたことは、老化、ニトログリセリンの浸出、自然分解による変敗により、著しく性能を低下させていたことである。

といつたことが明白にされている。

ところで他方、次のような点が解明されていないことも、又、明らかである。

(1)  本件ダイナマイトの性能の低下はどの程度であつたか。

(2)  ダイナマイトが入れられた薪の穴の大きさは正確にはどの位であつたか。

(3)  本件薪の穴の中に、ダイナマイトは何G入れられたか、

(4)  電気雷管は、何百度の温度まで熱せられ爆発するにいたつたか、

(5)  電気雷管が右温度にまで熱せられて行く過程で、ダイナマイトは、何故爆発しなかつたか。

火焔は何百度位で発していたのであろうか。

また、次のような疑問点も存することも明らかである。

(1)  ダイナマイトが爆発したとすると、電気雷管と同じ温度で同時に爆発したということは一体何を物語つているか

(2)  被告人が自から犯行を自供するまで、被害者らの供述調書を作成していなかつた理由は何か。

(3)  右供述調書によつても、いたずらということで傷害の内容について、明確にされていないのは何故か、

(4)  子供の傷口から出て来たという金属片の処理経過が明確でないのは何故か、

等々。

原判決は、本件の爆発は電気雷管二個のみにより生じたものではなく、同時に少量のダイナマイトも作用したものというべきであると判示する。

そして、このダイナマイトの爆発作用自体の程度について、久保田鑑定人の実験結果により認定している。しかしストーブの新旧の違い、電気雷管の熱し方の相異、雷管の爆発させ方の違い等々、実験の基礎条件と本件の具体的条件の違いを比べるならば、原判決の認定はあまりにも独断にすぎ、事実を誤認しているといわなければならない。

電気雷管を外的に爆発させることができる温度を明確にし、その温度を明確にしその温度はダイナマイトにどのような影響を与えるか、特にニトロ浸出や老化により、性能が低下しているダイナマイトにはどのような影響を与えるかということを明確にするならば、本件においては、ダイナマイトは爆発しなかつたこと、そもそも、本件ダイナマイトは爆発物取締罰則にいう爆発物たる性能を有していなかつたことが明確にされるのである。

この点、審理を尽さず、条件の異なる実験結果により認定された原判決の事実は誤認であるといわなければならない。

審理を尽し、原判決の事実認定は改められなければならない理由である。

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